東京から神奈川にかけて広がる多摩丘陵で新興住宅地の開発計画が持ち上がった。一帯をねぐらにしていたタヌキたちは戦々恐々。一致団結して建設を阻止することに決め、種族伝統の化学(ばけがく)を駆使して人間に対抗する
▼ああ、あの映画のことかとお分かりの人もいよう。スタジオジブリの『平成狸合戦ぽんぽこ』である。タヌキたちは妖怪や幽霊に化け脅したりすかしたり。必死の抵抗を試みるのだが…。この話、ねぐらを追われる側の視点で描かれているためタヌキに共感が集まるが、現実の社会に置き換えると双方にそれなりの理がある。どちらも生きる場を求めているだけというわけだ
▼どうやらこちらもそれぞれ「わが方にこそ相撲の生きる場あり」の考えで戦ってきたらしい。貴乃花親方と日本相撲協会のことである。貴乃花が25日に会見を開き、協会を退職し、角界から去る意志を明らかにした。協会にも有形無形の妖怪がいるようで、貴乃花に対し度重なる脅しやすかしがあったという。協会は7月の理事会で、親方がいずれかの一門に所属することを義務付けていた。その上で貴乃花が内閣府に提出した告発状が事実無根だったと認めなければ一門に入れないと宣告。譲れない貴乃花は弟子の将来を考え、断腸の思いで身を引く決心をしたそうだ
▼貴乃花によると、である。真相はまだ分からない。協会にも言い分はあろう。ただこの合戦は協会に巣くう古狸が意欲ある親方をつぶし、世間を欺こうとしているように見えて仕方がない。はて、本当は誰が誰を化かしているのだろう。