最近はあまり聞かれなくなったがひところよく使われた言葉に「燃え尽き症候群」がある。頑張りすぎて心身のエネルギーを使い果たし、意欲を喪失したり情緒不安定になったりする病である
▼高度成長期やバブルのころ、仕事一筋で会社に住み着いているような猛烈サラリーマンがしばしば侵された。現在もなくなったわけではあるまいが、危険性が知られ働き方も変わってきたため発症が抑えられているのだろう。フランスの人口歴史学者エマニュエル・トッド氏の『問題は英国ではない、EUなのだ』(文春新書)を読んでいて久しぶりにその言葉を思い出した。トッド氏が説くところによると世界各国では今「グローバリゼーションによる疲労」が共通の悩みなのだとか
▼ここ数十年、特に欧米先進国ではこと経済と移民に関しては一心不乱に国の垣根をなくそうと努めてきた。ところが格差拡大、テロ頻発と問題が続出。国民の意欲は大きく減退しているそうだ。これも燃え尽き症候群の一種ではないか。トッド氏はこのグローバリゼーション疲労を論拠に、トランプ大統領の当選を予言していた人でもある。そのトランプ氏だが、先の国連総会でも再び「米国はグローバリズムを拒絶する」と断言
▼米国経済が息を吹き返し、欧米社会が疲労を増している現実を見ると、トランプ氏は案外うまく時代の波に乗っているのかもしれない。とはいえ国際協調を無視しているのも確か。日本にもいつ火の粉が飛んでくるやら。トランプ氏は疲労に効く薬なのか、体を壊す毒なのか。見極めはますます難しい。