この緊迫感に満ちたナレーションを今でもそらで言える人は少なくないだろう。「仮面ライダー本郷猛は改造人間である。彼を改造したショッカーは世界制覇を企む悪の秘密結社である」
▼漫画家石ノ森章太郎原作の特撮ヒーロードラマ『仮面ライダー』シリーズ1作目のオープニングに必ず挿入された口上である。本郷猛は悪の秘密結社の勝手な思惑により、知らないうちに自分の体を改造されてしまったのだった。それが分かったとき、本郷猛はわが身の不幸を嘆かずにはいられなかった。今回の騒動も主導したのが悪の秘密結社でこそなかったものの、まともでない物を本体に埋め込まれた当事者はやはり落胆と憤りを感じたに違いない。KYBとその子会社が国土交通省の基準に満たない免震・制振装置を全国に出荷し、多くの建物に組み込まれていた
▼装置は建築物用のオイルダンパーで、担当者が検査データを改ざんして適合品に見せ掛けていたという。内緒の悪事を暴かれた企業がまた一つ、である。このダンパーが設置された建物は判明している分だけで全国1000件に上るらしい。本道でもさっぽろ創世スクエアや道庁本庁舎、幕別町庁舎など少なくとも12件に疑いがあるそうだ
▼深刻な欠陥品でなく震度7程度の地震でも倒壊の恐れはないというが、施主や施工者にしてみれば大事な建物をきずものにされた気持ちでないか。本郷猛は改造された怒りを原動力にしてショッカーを壊滅に追い込んだ。KYBもそうならぬよう徹底してうみを出し切り、地に落ちた信頼を取り戻すべきだろう。