テレビで刑事ドラマを見ているとよくこんなシーンが出てくる。捜査員が殺人を犯した男に事情聴取するのだが、証拠がそろっていないため追い詰めることができない。それを知ってか男は余裕の表情でこううそぶく。「俺が犯人だって言うなら証拠を持ってこい」
▼そのうち男には〝優秀な〟弁護士がつき、関係者の口裏を合わせるよう工作もする。刑事たちは地道な捜査で、そんな男のうそを一つ一つ暴いていく。ドラマなら最後に犯人を追い詰めるが、現実はそう簡単にいかない。青森県警は本件でそれに全力を尽くしたようだ。先月つがる市の国道で飲酒運転した上、4人もの人を死亡させる交通事故を起こした団体職員高杉祐弥容疑者を22日、逮捕したのである。高杉容疑者は危険運転致死傷容疑を否認していた
▼県警は容疑を固めるため慎重に捜査を進めたらしい。事故から1カ月かかったがついに、容疑者が50㌔制限の区間を130㌔で暴走していた事実を突き止めたのである。執念を実らせたのだ。この事故では猛烈な速度で追突された軽乗用の夫婦と対向車線にいて巻き込まれた代行運転手、客の女性が亡くなっている。ところが容疑者は飲酒を認めたものの、「運転は正常にできていた」とその影響は否定していたのだ
▼ばかな話である。酒を飲んで公道暴走など殺人と同じでないか。ただ現実には「正常」の論拠を崩せず刑の軽い過失にとどまることも多い。飲酒に甘い法律といわれるゆえんである。今回は県警が容疑者のうそを暴いたが、本来はごね得を許さない法運用こそ大事だろう。