若いころ小学校の先生をしていた絵本作家の安野光雅さんは最近の子どもを見て、「はだかで現実にぶつかることが少ないのでは」と心配しているそうだ。ことし出したエッセー『かんがえる子ども』(福音館)に記していた
▼「いろんなことにぶつかり、子どもなりの葛藤を経験し、やがてそれを免疫にしながら大きくなっていく」経験が不可欠だというのである。大人がそんな場を奪っていると感じているらしい。いじめもそう。子ども社会ではあって当たり前とし、大人が「みんなで相談して理想的な、平和の園を作ろう」としている方が問題と指摘している。もちろん程度はあり、無理して学校に行く必要はないとも強調していた
▼小中高校の2017年度いじめ件数が過去最高の41万件に上ったという。文科省が25日、調査結果を発表した。数が増えたのは同省が報告範囲を広げたせいもあるが、学校はいじめなどない「平和の園」だとの幻想から学校当局が脱しつつあることを示してもいるのでないか。学校関係者はこれまでいじめを異常な事態とし、自分の学校でだけは起きないものと考えたがってきた。それが結果として子どもへの圧力となり、陰湿化やSNSいじめを後押しする状況を生んだのである
▼労働災害もそうだが、人はヒューマンエラーを起こすものと認めることなしに有効な解決策は得られない。いじめも同じ。調査結果の通りどこにでもあるものとまず認め、その上で子どもが今後の人生を強く生きられるよう「免疫」をつけさせるのが大人の役目だろう。経験を奪うのでなく。