定年と聞いて真っ先に思い浮かべるのは寂しさか解放感か。どんな仕事をしてきたかによっても随分と違いが出よう
▼ノンフィクション作家の高橋秀実さんにとってはうらやましいものだそうだ。日本経済新聞にエッセーを寄せていた。作家に定年はない。「定年があれば『しばらくのんびりしたい』とか『第二の人生』などと言えるのだろうが定年がないと、これまでもずっとのんびりしてきたような気がして―」。第一の人生すら「まともに送っていない」気持ちになるらしい。人生の乗換駅を自分で見つけるのはなかなか難しいようだ。ところで今後の日本では、高橋さんのような自営の人が定年をうらやむ必要はなくなるかもしれない
▼政府が企業の継続雇用年齢を65歳から70歳に引き上げることを検討しているのだ。現行法と同様、定年引き上げか再雇用、または定年制廃止いずれかで対応しなければならない。現在の平均寿命は男性81歳、女性87歳だから、少なくとも男性は文字通り生涯現役となろう。どうやら「しばらくのんびり」したり「第二の人生」に踏み出したりする暇はなくなりそうだ。もちろん希望者のみの話で長く働きたくない人はいつ辞めても構わない。企業に70歳まで働ける環境を整えさせるのが法の趣旨である。年金受給年齢も変わらない
▼ただ、これからは特に生活のため働かざるを得ない人が増えるのでないか。以前読んだサラリーマン川柳(第一生命)を思い出す。「定年の朝にようやくねぎらわれ」出雲の与太郎。寂しさがない替わりに解放感もねぎらいも遠のくかも。