封建制度が社会の隅々にまで浸透していた江戸時代のことである。藩主に対し家臣は絶対服従だったと思いきや、実態は必ずしもそうでなかったらしい
▼公金を遊興に費やし藩財政を危機に陥れるような藩主も当時少なからずいたようで、そんなとき家臣団はひそかに打ち合わせて手はずを整え藩主を拘束。座敷牢や離れに幽閉したそうだ。「主君押込」という。やむを得ないこととして、幕府もこれを容認していた。もちろんそのころの日本に民主主義が機能していたわけではない。お家を守るため家臣団に残された最後の手段が、素行の悪い藩主の排除だったのである。世間をあっと言わせた今回の出来事を見て、その「主君押込」を思い出した
▼日産自動車会長のカルロス・ゴーン容疑者がおととい、金融商品取引法違反で東京地検特捜部に逮捕された事件のことである。疑惑を指摘する内部通報を受け社内で数カ月にわたって秘密裏に調査を進めた結果、ゴーン容疑者の重大な不正が明らかになったという。日産はこの情報を地検に提供。羽田空港での電撃逮捕につながった。対象期間中約100億円の報酬を受けていたのに、有価証券報告書にはその半分しか記載していなかった疑いが持たれている。会社資金の私的流用もあったようだ
▼かつて大胆な合理化で日産をV字回復に導き、今はルノーと三菱自動車を加えた3社連合を率いる大藩の主も強欲の罠からは逃げられなかったか。そういえば高額報酬へのこだわりが異様に強い人ではあった。日産の不祥事が止まらない。名君は現れるのだろうか。