マネジメントの父と呼ばれる経営思想家のピーター・F・ドラッカーは、その集大成とされる著書『マネジメント 基本と原則』(ダイヤモンド社)で組織内のコミュニケーションの難しさについてこんなことを語っていた
▼「今日あらゆる組織において最大の関心事となっている。それにもかかわらず、明らかになったことといえば、コミュニケーションは一角獣のように未知のものであるということだけである」。世耕弘成経済産業相は今まさにその難しさを痛感していよう。アベノミクス第3の矢の切り札としてこの9月に発足したばかりの「産業革新投資機構(JIC)」の民間取締役9人全員が10日、経産省の手法に反発して辞任する意志を明らかにしたのである
▼JICは成長産業を育成するため有望な企業に資金を供給する官民ファンド。銀行や証券、大学など民間から金融や投資のエキスパートが集められていた。それが発足わずか2カ月でのコミュニケーション崩壊。極めて異例というほかない。どうやら「役人根性」の悪い部分が出たようだ。省が提示し両者で合意した役員の高額報酬を世論の批判が怖いからと後になって撤回。いちいち省の判断を仰がずとも投資を実行できる機動的な運用手法にも文句をつけた。これでは武器なしで世界と戦えというに等しい
▼ドラッカーはソクラテスが説いたこの言葉で円滑なコミュニケーションの要点を伝えていた。「大工と話すときは大工の言葉を使え」。投資の国際言語は経産省にとって未知のものだったらしい。役人言葉には堪能なようだが。