サラリーマンの悲哀というものがある。職場で達成不可能な成果を求められ、あまりの苦しさに仕事を辞めたいほど追い詰められるのだが妻子の養育を考えると収入を途絶えさせるわけにはいかない
▼前に進めずさりとて後ろにも下がれず、もんもんと日々を過ごす。そんな経験、したこともあったなと思い出す人もいよう。心理学ではダブルバインド(二重拘束)と呼ぶらしい。矛盾した状況に置かれることである。河野太郎外相もそのダブルバインドに陥っていたのでないか。おとといの閣議後記者会見で、北方領土問題に関する記者たちの質問に4回連続して「次の質問どうぞ」。黙殺する形で一切回答しようとしなかったのである
▼この態度にマスコミや野党からは、これまでの政府方針はどこへ、政府は秘密裏に進めようとしている、誠実でない―などずいぶん批判が出ているようだ。ただ、交渉の中心にいる人物である。板挟みの立場だろう。説明はしたかろうがロシアを刺激しては元も子もなくなる。質問はラブロフ露外相の発言「日本が第2次大戦の結果を認めないと交渉は始められない」に対する河野氏の見解だった。対日強硬派のラブロフ氏のことだ。日本に不用意な発言があれば渡りに船とばかりご破算をもくろむに違いない
▼河野氏ももう少し答え方に工夫があればよかったが、最も重要視すべきは交渉の進展で、記者サービスでないのだから仕方がない。難しい使命を課され記者からは集中砲火、同時にロシアの動向も気にせねばならぬ。トリプルバインドである。外相の悲哀だろう。