過疎地に眠る文化財 旧斉藤牧場事務所を守れ(下)

2018年12月28日 15時00分

 予算確保と維持管理課題

 明治時代に建てられた旧斉藤牧場事務所は、保全について過去に所有者と町との話し合いが2回ほど行われた記録がある。1985年ごろの協議では当時の所有者は文化財指定の意思があったようだが、町側が示した北海道開拓の村への移築保存の提案には「この場所にあることに意義がある」と拒否したという。2003年にも所有者が保存方法について町に相談しているが具体的な話にはならなかったもようだ。

 建物自体は89年に基礎を修復しているが全体的に老朽化が進んでいる。同じ時期に建てられたとされる厩舎(きゅうしゃ)は積雪により倒壊してしまったが、いつ同じような憂き目に遭うか分からないのが現状だ。

敷地内にあった厩舎は積雪で倒壊した。事務所も同じ憂き目に遭う可能性がある

■浦幌町の学芸員が保全へ動く

 道東3管内博物館施設等連絡協議会などはことし10月、浦幌町内で過疎地での文化財保護の現状と課題に関するシンポジウムを開いた。浦幌町立博物館の持田誠学芸員は、旧斉藤牧場事務所の現状を問題提起した。

 財政事情が厳しい地方自治体によって保全に向けた予算確保が大きな課題だ。修復自体はクラウドファンディングなどである程度お金を集める方法はあるが、その建物をいかに永年的に維持管理していくかに焦点が絞られる。シンポジウムでは、十勝管内で大規模酪農を展開する企業がメガファームを建設するケースがあることから、敷地一帯に競走馬の牧場を誘致した上で、建物自体はNPO法人で管理するアイデアが出た。

 持田学芸員は今後について「一度、専門家に老朽の程度を診断してもらう必要がある。現状確認と修復にいくらかかるかきちんと検討したい」と話す。町の文化財審議会で調査の方向性を定め、専門家を交えた専門部会を設置することを考えている。

 町内では、1953年に建てられ数少ない木造駅舎だったJR上厚内駅が17年3月に廃止したことから、ことし9月に解体された。持田学芸員は「これ以上は減らしたくない。歴史的に見ても牧場事務所はピカ一に古い。これを何もせずに朽ちさせたとなると、はっきり言って町として文化財行政がないのと同じだ。ある程度、万策を尽くさないといけない」と覚悟を語る。

 もちろん、これらの活動には町民の理解が必要だ。建物調査と併せて厚内地区の町民を中心にした見学会や事務所の在り方を考える座談会の開催、斉藤牧場に関わった人への聞き取り調査も考えている。小さな町の学芸員が保全に向けて動き始めている。この熱意を町全体に伝達させ、町民全員でまちの文化財をどう守っていくか知恵を絞らなくてはならない。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • 川崎建設
  • 東宏
  • オノデラ

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,396)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,289)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,258)
アルファコート、北見駅前にホテル新築 「JRイン」...
2024年04月16日 (1,101)
藻岩高敷地に新設校 27年春開校へ
2022年02月21日 (920)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。