昭和40―50年代、子どものころのことだが家族でよくテレビ時代劇を楽しんでいた。『大岡越前』『木枯し紋次郎』『必殺仕掛人』『子連れ狼』―。挙げていくとそれだけで紙面が尽きてしまう
▼人情、礼節、勧善懲悪。見どころは数々あれど、ドラマの一番の華はやはり殺陣の場面だろう。着物を粋に着こなした侍たちが長い日本刀を自在に操り、画面狭しと縦横無尽に立ち回る。毎回、胸のすく思いがしたものだ。体の自由が利かなそうな着物でよくあれだけ戦えるものだと見るたび感心していたが、洋装よりも調整の幅が広い分むしろ楽に動けるのかもしれない。動作の工夫や独特の体さばきも当然身に付いていよう。何せ普段着である
▼福井県の僧侶が昨年9月、僧衣を着て車を運転し、運転に支障をきたす服装だとして警察に違反切符を切られたそうだ。僧衣といえば着物のようなもの。最近その話題を知りかつての時代劇を思い出した次第。いつもの仕事着をとがめられた男性の驚きは想像に難くない。少し前からネット上で僧侶がとんぼ返りや宙返りなど軽業師のような技を披露する動画が増えていた。何だろうと気になっていたのだが、実は全国の僧侶が「僧衣でもこれだけ自由に動ける」と抗議の意味を込めて投稿していたそうだ
▼筆者も知り合いに僧侶がいるため車に乗せてもらう機会がある。僧衣が運転の支障になっていると感じたことは一度もない。外回り用の僧衣は案外機能的である。警察も目くじらを立てる必要はないのでないか。運転だけで大立ち回りを演じているわけでもない。