北大は11日、女性の多様な生き方を考えるシンポジウムを札幌市内の北大フード&メディカルイノベーション国際拠点で開いた。約110人が参加した。会社員、経営者、農家、専業主婦ら年代や職業が異なる女性たちが、自らの生き方や考え方を紹介。結婚や出産時に難しい選択を迫られ、悩んだ経験などを説いた。
ライフサカス(本社・東京)の西部沙緒里社長は、人生を大きく変えた出来事を告白した。33歳で結婚。子どもがほしいと考え始めたときに「乳がんと宣告された」という。1年の闘病生活を送り、ようやく元の生活に戻れると思った矢先に不妊宣告。「子どもを当たり前に産める未来を描いていた。それが目の前で崩れる衝撃を、この日初めて痛感した」
不妊の悩みは周囲に打ち明けにくく、1人で抱え込みがちだ。「不妊当事者の多くは、仕事をもち社会でバリバリ活躍してきた女性。結果として、妊娠適齢期を過ぎて不妊問題に直面している」と指摘した。
不妊当事者を、会社や社会全体が支える土壌をつくる活動がしたいという思いから、ウェブメディア「UMU」を立ち上げた。不妊治療をして子どもを授かったカップルや、治療を支えるパートナーなど、さまざまな人に実名顔出しで語ってもらう、うそ偽りのないリアルストーリーを紹介している。「無数の選択、人生、家族の形が世の中にある」と話した。
女性がホルモンの影響を受けて健康不安のリスクが高まる時期は、仕事のやりがいを感じて社会から求められる人材になる時期と重なる。「女性は自分の体や人生について自覚的であってほしい。周囲がサポートできる社会が理想」と唱えた。
対馬貴子さんは北海道電力の販売推進部で働く47歳。「今まで自分が歩んできた人生に後悔はない」と自信をのぞかせた。
人生の中で唯一気にかけているのは、母との関係。母が求める娘の姿と、自分の生き方は懸け離れているという。「就職、結婚、子ども。ことごとく母の期待に添えずに今に至る」と明かした。
「母親のために生きているわけではないので、私は自分が納得した人生をこれからも過ごしたい。母親に分かってもらえる日は来ないかもしれないけど」
和田肖子さんは大学院修了後、道外の大手メーカーなどで働き、現在は専業主婦をしている。
妊活のために退職した。専業主婦になって感じたのは「家のことをやっても成果が見えにくい」こと。成果が目に見える仕事とは異なる。
夫一人で家庭の経済基盤を支えなくてはいけなくなった。互いに不満が募るといけないと思い、意識して夫と話す機会を設けるようにした。「気づかないだけで、夫が黙ってやってくれていることもたくさんあった」。夫婦間の会話は大事だと実感したという。
北大農学部4年の栗原利奈さんは「絶対に結婚しなければいけないとは思っていない」とする一方、「結婚しているかどうかが社会的にいろんな意味を持つことも何となく感じている」と正直に話した。
大学院に進学する予定。就職活動はまだ先だが、「先輩も結婚・出産のことを考えて就活していたみたい。考えている人は考えているんだなって」。自身は就職して働きたいと思っているが、周囲には、仕事に熱心でキャリアアップを目指す〝バリキャリ〟を望む女性は少ないという。
結婚をするのか、子どもは産むのか、仕事は続けるのか―。女性たちはときに難しい選択を迫られ、悩む。
人生に正解はない。社会の固定概念にとらわれず、自分らしい選択をして生きることが大切だということを共有した。