階段を三つほど上っていくとあら不思議、いつの間にか元いた一番下の場所に戻っている。現実の出来事ではない。「だまし絵」の話
▼オランダの版画家エッシャーが有名だが他にもいろいろある。一見すると若い女性の後ろ姿だが、よくよく眺めると老婆に。つぼが一つ置かれているが、視点を変えると実は二人の顔が向かい合っていた。見たことがある人も多いのでないか。意表を突く仕掛けが思いのほか楽しい。ところで近頃は「だまし絵」ならぬ「だまし映像」が横行している。つい最近も二つ話題になった。一つは米国で先住民の男性がトランプ支持者の青年たちに囲まれ、はやし立てられているとの内容だ。「インスタグラム」に投稿された映像を米大手メディアCNNが紹介した▼直後から青年たちには批判が殺到したらしい。しかし真相は男性の方から青年たちに近づいてゆき罵声を浴びせていた。つまり映像の特定の部分だけを切り取り、青年たちが危害を加えるかのように見せかけていたわけ。もう一つは日本である。東京都の町田総合高校で男性教師が男子生徒を殴っている映像だ。こちらもSNSで瞬く間に拡散。ニュースでも暴力教師の事件として大きく取り上げられた
▼ところが後に明らかになった映像全編には殴られた生徒が激しく教師を挑発する姿や、撮影した生徒の一言「炎上させてやろう」も記録されていた。教師を陥れようと殴った部分だけ抜き出していたのだ。真っ黒に見えていたのに実は白。今の時代、情報を受け取る側もだまされないよう眼力を鍛える必要がある。