漂泊の俳人山頭火が旅の途上でしたためた一句という。「捨てきれない荷物のおもさまへうしろ」。やむにやまれぬ思いから俗世を捨て旅に出た彼にも、抱えて歩かねばならぬ人生の重荷があったのだろう
▼きょうは3月11日。東日本大震災から8年がたった。東北地方の太平洋沿岸部で直接被害に遭った方々は言うに及ばず、同じ時を経験した多くの日本人にとっても心の中にずっしり残る重さを意識する日である。書店で『あの日からの或る日の絵とことば』(創元社)という本を見つけた。現地で被災したわけではないけれど、確かに「あの日」を経験した絵本作家たちが3・11にまつわる自らの物語をつづったエッセイ集である
▼千葉県に住む石黒亜矢子さんは、原発事故による放射能汚染にひどく過敏になっていた当時を振り返った。東京で暮らす加藤休ミさんは長期戦を予感したからかまずあんぱんと牛乳を買ったそうだ。樋口佳絵さんは〝3月11日〟と印字されたレシートであの日を思い出していた。ところで32人の絵と文で3・11を深く掘るこの本の試みは、率直に言ってあまり成功していないようだ。今一つ言葉が伝わらない。気持ちの整理がつかないまま文字を連ねた人が多かったのでないか
▼逆に考えると8年たっても答えを出せない現実を示しているともいえる。皆同じだろう。直接被災した方々はさらに。ヨシタケシンスケさんのこんな一文が印象に残った。「とにかく、私たちには新しい形の希望が必要なのだと思う」。ただ、まだしばらくは荷物の重さを感じながら歩く日が続く。