小学校に上がる前、初めて間近で手品を見たときのことを今でもよく覚えている。通っていた保育所に大道芸を見せる人が来たのだ。その芸人さんが披露してくれたのはこんな手品だった
▼まず新聞紙を広げて見せ、それを畳んで袋状にする。おもむろに大きなやかんを取り出した芸人さんはその新聞袋に水をたっぷりと注ぐ。子どもたちは大騒ぎである。次の瞬間、芸人さんが新聞紙を広げると、水はどこにもない。新聞紙は全くぬれておらず、水は煙のように消えてしまった。キツネにつままれたような気がしたものである。最近聞いたこの話もその点、不思議さにおいてはかつて見た手品に引けを取らない
▼東京や群馬に複数キャンパスを置く東京福祉大で、在籍していたベトナム人やネパール人などの外国人留学生約700人がいつの間にか消えていたというのである。しかもたった2年の間の出来事だそうだ。日本語能力が十分でない学生を、比較的安い入学金で研究生として大勢受け入れていたらしい。学費を払わないため除籍処分にしたものでむしろ被害者だと大学側は説明するが、さてどうだろう。柴山文科相は「在留期間延長のため研究生として受け入れるビジネスモデルが確立している可能性がある」と懸念を表明している
▼実態を確かめるため文科省と法務省はおととい、立ち入り調査を実施した。結果次第では私学助成金の不交付もあり得るという。留学生がどこへ消えてしまったかも気になるところ。何にせよこんな陳腐な舞台裏が透けて見える手品では、誰も幸せな気分になれない。