津軽地方には「こどばなさけ」という方言があるそうだ。掛けられると気持ちが楽になる言葉をそう呼ぶらしい。弘前学院大の今村かほる文学部教授がエッセイの中で紹介していた
▼例えば痛い注射をする際、A病院では看護師が「注射はみんな痛んだはんで(痛いのだから)、我慢しへ(しなさい)」と冷たく言い、B病院では「注射すよ(するよ)、チグっとすよ。いでな(痛いよね)、がんばって」と力づける。B病院の患者は「何も痛くねがったじゃ(痛くなかったよ)」と喜んでいたそう。また東日本大震災後の仙台では被災者にこんな話を聞いたという。「がんばろうって言われてもがんばれない。だけど、がんばっぺしって言われれば、んだなって思える」(『ベスト・エッセイ』光村図書)。真心が大事である
▼残念ながらこの人には「こどばなさけ」がなかった。桜田義孝前五輪相のことである。高橋比奈子自民党衆院議員のパーティーで、「復興以上に大切なのは高橋さん」と言い放ったのだ。無神経さに驚く。東京五輪で震災復興の機運を盛り上げると前置きした上で、その復興より一議員が大切と言ったというのだから大臣の資質が疑われても仕方ない。誰が聞いても不快な発言だが、特に被災した方々は胸をえぐられるような痛みを覚えたのでないか
▼失言があったのは10日。桜田氏は同日中に自ら非を認め謝罪、安倍首相に辞表を提出し即日受理された。事実上の更迭である。口が滑ったのかもしれないが「復興以上に―」はない。「みんなでがんばっぺし」。それで良かったのだ。