世に必勝法は数々あれど、これなどは日本で最も古い部類に入るだろう。吉田兼好の『徒然草』第百十段である。兼好が「双六の上手といいし人」に、なぜそんなに強いのかと尋ねたときの話
▼双六の上手いわく「勝たんと打つべからず、負けじと打つべきなり」。勝ちにはやらず、負けぬ手を予測して一目一目慎重に打て、というのだ。これを聞いた兼好は、人が生きるのも国を保つ道も結局同じことだと得心する。日本はこの先人の知恵をすっかり忘れていたようだ。韓国が福島など8県産の水産物を輸入禁止にしている事案で、世界貿易機関(WTO)が先週、禁輸は不当とした一審を退け一転日本の負けとなる最終判断を下したのである。日本は勝って当然と大して準備もせず、余裕の態度でいたらしい
▼韓国は違っていた。韓国紙「中央日報」によると、WTO上級委員会が開かれるジュネーブのホテルに作戦室を設置。20人態勢で3週間、負けに陥らないシミュレーションを徹底的に繰り返したという。担当した韓国政府のチョン・ハヌル通商紛争対応課長は同僚に「今回の訴訟を覆して勝てば『ミラクル』」と言われていたそうだ。大金星だろう。この逆転負けを受け、河野外相も菅官房長官も「WTOは安全性を否定したわけではない」と弁明したものの、後の祭り
▼安全なのに負けたということは、風評が世界で大手を振って歩くということだ。日韓の間には、いわゆる徴用工や慰安婦の問題も横たわる。日本政府はわが方に理ありとのんびり構えている場合でない。負けじと打つべきである。