正体が分からず不気味なものでもひとまず名前を付けてしまえば気持ちが少し納まる。人間心理の奇妙さだろう。落語「てれすこ」はそのあたりを笑いで突く
▼ある日、浜で漁師も見たことのない魚が揚がる。困惑した奉行は「魚の名を知る者には賞金百両」の高札を掲げた。そこで悪知恵の働く茂兵衛が「魚は『てれすこ』にございます」とでたらめな名を届け出。安心した奉行は約束通り百両を取らせるのである。もちろんこれがオチではない。少々ふに落ちぬ奉行は魚を干物にして再び同じ高札を掲げる。もう一稼ぎと喜んだ茂兵衛は「これはステレンキョウです」。うそがばれてあえなくお縄となる
▼こちらもひとまず名前を付けてみた、というところか。北朝鮮が最近数度にわたって発射したとされる「飛翔体」である。映像ではどう見てもミサイルなのだが、韓国軍も日本政府も各報道機関も判で押したように正体不明の「飛翔体」で統一。それならいっそのこと「てれすこ」でもよかったのでないか。先週後半、米国防総省が「弾道ミサイル」と断定したことで日本もやっとミサイルと認定した。短距離で弾道も違うとはいえ、発射のたび詳報を伝えた2年前に比べずいぶん腰が引けている
▼弾道ミサイルであれば明確な国連安保理違反。融和ムードに水を差すため判断が慎重になるのも分からなくはないが、「飛翔体」と呼んで事実から目をそらすなら北朝鮮の思うつぼである。第一、あれは「飛翔体」だから安心などと信じる人がどこにいよう。「てれすこ」で納得するほど国民は愚かでない。