思い込んだら後には引かない人がどこの世界にも一人はいる。脚本家の向田邦子さんもエッセイ「唯我独尊」にそんな女性キエ子さんの話を書き留めていた
▼彼女は週刊誌の雑な印刷に腹を立てていたそうだ。ぶれた写真が多いからである。これは出版界の一大事と、あるとき雑誌の編集者に苦言を呈した。返ってきた言葉は「失礼だが、検眼をしたほうがいい」。実は老眼のため写真がにじんで見えていたのである。このキエ子さんとは向田さん本人のこと。「世の中で自分ひとりがすぐれている。私のすることに間違いなどあるわけがない。違っているのは相手であり世間である」。そんな考えは「お釈迦様ならいいが、凡俗がやると漫画である」。反省しきりだったらしい
▼札幌市議会で13日に起きた珍事を聞き、そのエッセイを思い出した。4月の統一地方選後初めて開かれた市議会で最年長議員の松浦忠氏(79)が自分が議長になると言い張り、9時間以上にわたり議長席を占拠し続けたというのである。地方自治法の規定により最年長の松浦氏が臨時議長に就いたまでは良かった。次に正式な議長を市議互選で選ぶのが慣例だが、松浦氏はこれを突如覆し立候補制を提案。候補は自分1人だとして議長就任を宣言したのである
▼「私のすることに間違いなどあるわけがない」と言わんばかり。議員が議会で議論をないがしろにするなど漫画にもならない。これがなんと道都札幌で起きた出来事なのである。同日深夜、ようやく新議長が決まった。松浦氏には肝心なものがぶれて見えていたのでないか。