経営の神様とも称されるパナソニックの創業者松下幸之助は『人生心得帖』(PHP研究所)の中の「人情の機微」で、以前聞いた話としてこんな逸話を紹介している
▼明治政府が初めて所得税を導入しようとするとき、税務署が大阪の金持ちたちを一流のお茶屋に招待した。不安な気持ちを抱きつつ出席した彼らの前に現れた税務署長は、末席に着いて丁寧に所得税の趣旨を説明。礼を尽くして協力を願ったそうだ。松下氏は語る。官尊民卑の時代だから呼び付けて命令しても良かったはずだが、「こうした人情の機微にふれる態度や配慮というものが、お互いの日々の生活においても、やはりきわめて大切ではないか」
▼翻って10月に引き上げが予定される消費税である。国民の間に納得感は広がっているだろうか。今は官尊民卑の時代ではない。税金は助け合いの仕組みだとの認識も浸透していよう。それでもどこかふに落ちないのは、政府や財務省に人情の機微に触れる態度や配慮が足りないからでないか。政府側は税率が8%から10%へ、ごく小幅に増えるだけと考えている節がある。景気減速が鮮明になってきているのに、参議院選が控えているせいかこのところ積極的な発信がない。協力を求めるに大事な時期なのにもかかわらずである
▼国民にしてみれば健康保険や介護保険、年金といった社会保障負担が年々重くなる中での、さらなる2%増である。当方などは江戸時代の石責めの刑をつい思い浮かべてしまう。下座に座って頭を下げる必要はないが、押し切れば何とかなるという態度も違う。