うちの子どもが幼稚園に通っていたころ、通園バスまでの送り迎えを何度かしたことがある。家から歩いて5分ほどの交差点の近く。集まっているのはいつも同じ幾組かの親子だった
▼気心の知れた子どもたちはすぐにじゃれ合いを始め、仲の良いお母さんたちも世間話に花を咲かせる。程なくバスが到着し、降りてきた先生の明るいあいさつの声が響く。子どもたちの笑顔がはじける。乗り込む姿は元気いっぱいだ。この日常風景に危険な部分は一つもなく、安全が脅かされるような気味の悪さを感じたこともなかった。今回は幼稚園でなく小学校のスクールバスだったが、やはり危機感とは無縁の場所だったろう。当然、そうでなければならなかったのだ
▼おととい、川崎市多摩区登戸新町の路上でバスを待っていた私立カリタス小の児童と保護者合わせて19人が刃物を持った男に突然襲われ、小6の栗林華子さん(11)と他の児童の父親小山智史さん(39)が殺害された。あとの17人も重軽傷を負ったという。容疑者は刃渡り30㌢の包丁を両手に持ち、無言で次々と切りつけたらしい。揚げ句、その場で自殺。大切な命を奪い、社会に不安を与え、責任もとらない。あきれた卑劣さだ。日本が銃社会でなかったことだけが救いか
▼「ちちと娘と待ち合はせゆふべ帰るさまウィンドの続くかぎり映れる」松平盟子。二人仲良く帰ってくる父娘の姿を、お母さんが窓から見守っているのだろう。そんな日常を永遠に失った家庭がある。人の幸せを壊す蛮行を断じて許すわけにはいかない。どんな事情があろうと。