石油燃料で走行する今の車は過去の時代の遺物―。そう断言するのは米カリフォルニア大バークレー校のリチャード・ムラー物理学教授である。著書『今この世界を生きているあなたのためのサイエンス』(楽工社)に記していた
▼「ガソリンが安く、誰も環境汚染のことなど心配しなかった」ころの製品で、そのまま進歩していないそうだ。摩擦や空気抵抗で生じた熱を無駄に捨て、燃料を浪費するだけと手厳しい。地球温暖化の影響が深刻な形で現れているのに、「危機感が欠如している」と大層お怒りなのである。その上でハイブリッド車の高性能化や車体の軽量化にもっと真剣に取り組むべきと提言。本気になれば1㍑当たり40㌔の燃費を達成することも可能と述べていた
▼この物理学者の直言に技術者は何と答えるだろう。どうやら先送りはできないようだ。国土交通、経済産業の両省が3日、乗用車の新たな燃費基準を2030年度に、現行の20年度目標比44.3%向上させる原案を発表したのである。1㍑当たり17・6㌔を25・4㌔に伸ばそうというのだから小手先の技ではどうにもならない。加えて新基準では発電所などで使ったエネルギーも燃費に反映させるそうだ。電気で動くから「燃費の優等生」とは言えなくなる
▼メーカーはこの高い要求に頭を抱えていよう。安全基準やコスト条件を満たしたまま燃費を上げるのは相当に難しい。ただ、いち早く実現できたメーカーは強い国際競争力を手にできる。あと10年。ムラー教授をアッと言わせるような技術が日本から生まれるといいのだが。