双子の幼い男の子を持つ若い母親と交際する男が、その親子の住まいに転がり込んでくる。優しいふりをしていたのは最初だけで、気付いた時には日常的に暴力をふるうようになっていた。伊坂幸太郎さんの長編小説『フーガはユーガ』(実業之日本社)はそんな情景描写から始まる
▼兄弟が殴られるのを見て双子のもう一方の子は思う。「あの男が今、どうして怒りだしたのかは分からない。いつだって、そうだ」。お母さんは実の親だ。助けてもらいたい。ただ、子どもたちにはこうだと分かっていた。「お母さんは別に味方ではない。いつだって見て見ぬふりなのだ。むしろ面倒臭そうに溜め息をつくだけ」
▼この家も同じだったのか。札幌市中央区のマンションで2歳の長女を執拗(しつよう)に虐待した揚げ句、死に追いやったとみて21歳の母親と24歳の交際相手が逮捕された。亡くなったのは詩梨(ことり)ちゃん。5日早朝に母親から消防に通報があり、その後病院で死亡した。衰弱死だったという。健康であれば90歳近くまで生きられる時代に、たった2歳でこの世を去らねばならなかったとは。あまりの理不尽さに怒りを覚えた人も少なくなかったろう。今回も近所の方々が異常を察知し、警察や児童相談所も動いてはいたが詩梨ちゃんを助けることはできなかった
▼ほとんどの家庭は子どもを慈しみ、大切に育てていよう。ただ、外から見えず手も出せないブラックボックスの中で日々虐待されている子どもがいることも確か。家に味方がいなくとも外にはいる。手を尽くして救い出したい。