ハンセン病訴訟で国は控訴せず

2019年07月11日 09時00分

 雑誌『映画評論』1941年5月号に、当時活躍していた映画監督伊丹万作氏が「映画と癩の問題」と題する一文を寄稿した。「癩」とは今でいうハンセン病のこと

 ▼伊丹監督は患者に焦点を当てたある映画が美しい仕上がりになっているのに不満を持ち、強く批判する。「癩問題に対する唯一の正しい態度は、隔離政策の徹底によって癩を社会的に解決しようとする意志に協力する立場をとる以外にはあり得ない」。そしてこう続けた。「私一個人はやはりそれを見たいと思わないし、そのような題材を劇映画で扱ってもらいたくない」。患者を人の目に触れさせるなということだろう。残酷だがこのころは、間違った隔離政策がまかり通っていたのである。いったん社会に根付いた差別は薄紙を剥がすようにしか消えてくれない

 ▼これもその差別解消の流れを後押しする力となろう。安倍首相が9日、被害を受けたハンセン病の元患者の家族への賠償を国に命じた熊本地裁の判決に、控訴しない意志を表明した。会見で首相は「家族の苦労をこれ以上長引かせるわけにはいかない」と語ったそうだ。法解釈や面目にこだわるより、政治判断で早期救済に乗り出すようかじを切ったわけだ。国としては遅きに失したものの、家族の傷口になお塩を塗り込む事態だけは避けられた

 ▼ハンセン病に限らず世の中に差別は多い。たいていは無知や誤った知識の種が、恐怖や不安といった負の感情に栄養を与えられて大きく育つ。知らぬ間に先の監督のようになっていないか。自分の中の差別の種をいま一度点検したい。


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