社会に背を向けた若者の暴走を描いて、当時圧倒的支持を受けた米映画『俺たちに明日はない』(1967年)をご記憶の人も少なくないだろう。名優ウォーレン・ベイティが監督、主演を務めた犯罪ロードムービーである
▼ベイティ扮(ふん)するクライドと恋人ボニーを中心とする強盗団が銀行襲撃を繰り返し、追っ手と激しくやり合った揚げ句、ついに破滅するまでを描いた。衝撃のラストシーンが印象に残る。映画の設定は29年の世界大恐慌のころ。この時代は銀行が金庫の中身を奪われてしまえば預金者は諦めるしかなかった。現在は違う。銀行が破綻しても一定の範囲で預金は守られる。多くの国に預金者保護の仕組みがあるのだ
▼世界的SNSの米フェイスブック(FB)が発行を計画する暗号資産「リブラ」で懸念されるのがその資産保護だという。国が管理する通貨でないため、法の縛りがない代わりに保護もなし。FBがつぶれたり、盗まれたりした場合は保有資産が露と消える可能性もある。リブラは27億人の利用者がネット上で使える「お金」。使いやすさに優れる。世界にはスマホはあっても銀行口座のない人が大勢いるため、そんな人でも送金や取引、運用が楽にできるようになる
▼ただFBはこれまで顧客情報の流出を繰り返してきた。膨大な資産を動かす企業として信用して良いか。先週開かれた先進7カ国財務省・中央銀行総裁会議の関心もそこだった。いくらFBが安全を主張しても、現代の「ボニー&クライド」ハッカーに襲われたらひとたまりもないかもしれないのだ。