本田技研工業創業者の本田宗一郎氏は経営手腕の高さだけでなく、独特の表現で的確に世事全般をひもといてみせることでも有名だった。経営者の資質論もその一つ。著書『俺の考え』(新潮文庫)で、なるほどその通りかもと思わされる興味深い見方を披露している。題して「消しゴムのない日記」
▼氏は経営者の一番大事な資質は信頼だとする。ただし信頼できる人物かそうでないかは言葉や文字では分からない。そこでどうするか。日記を見るのだそう。その人物が日頃周囲に見せている姿や行動という消せも隠せもしない「日記」をである。それで信頼が裏付けされなければ「百万べんしゃべったって、どんなPRしたって人はついてこない」
▼岡本昭彦吉本興業社長のおとといの記者会見を見て、その日記の話を思い出した。日本を代表するお笑い事務所の社長としては内容があまりにお粗末。所属芸人までもが次々と不満を述べていることから察するに、「日記」の中身もかなりずさんな人なのだろう。今回の件は看板芸人の宮迫博之、田村亮両氏らが反社会的勢力の会合に出席し、金銭を受け取ったことが発端。両氏が20日に謝罪会見を開いた際、吉本側から不当な扱いを受けたと告白し、これに応える形で岡本社長が登場したのだった
▼ところが会見は5時間半も続いたのに、不当な扱いや責任の所在に関しては要領を得ないまま。受け答えもちぐはぐで吉本ならではのユーモアもない。やれやれな気持ちにさせられたが、そこでふと気になったのは自分の「日記」。はて、中身はどうだろうか。