人は事件や事故、大きな災害などに巻き込まれるとトラウマ(心的外傷)を負うことがある。過度なストレスによって心の安定を保つ堤防が決壊してしまうのだ
▼症状の現れ方は人それぞれだが、訳もなく不安になったり、怒りや悲しみの感情を抑えられなくなったりする例が多いという。頭痛や呼吸困難といった身体症状が現れるケースも珍しくないそうだ。誰にでも起こることで、心の強い弱いは関係ないらしい。トラウマを負ったときには悪化させないよう原因となった出来事には触れないことが大切。特別な場合を除き想起させる場所や人物にも近づくべきでないとされる
▼だとするとやりくりして続けるよりこうなった方が良かったのかもしれない。東京電力ホールディングスがおととい、福島第2原子力発電所1―4号機を廃炉にすると正式表明した。2011年の東日本大震災で事故を起こした同第1原発の1―6号機は既に廃炉が決まっているため、これで福島県にある原発10基全てが廃炉になる。精神医学の定義に則った言い方ではないが、福島の原発に対しては県民のみならず日本人のほとんどがある種のトラウマを抱えていよう。事態は収束に向かっているとはいえ、事故の象徴たる福島の原発に心をかき乱される人もまだかなりいるのでないか
▼第2原発は事故とは関係がないものの、原子力規制委員会の安全審査に基づき再稼働を進める他の地域の原発と同列に論じることはできまい。トラウマを乗り越えるにはきっかけが必要である。福島原発の全機廃炉がその第1歩になればいい。