純朴な見た目に抜群の歌唱力。1980年代に活躍した高田みづえさんを覚えている人も多かろう。ヒット曲の一つにサザンオールスターズの楽曲をカバーした『そんなヒロシに騙されて』(桑田佳祐作詞作曲)があった
▼「おまえが好きだと 耳元で言った そんなヒロシにだまされ 渚にたたずむ 踊りが上手で ウブなふりをした そんなヒロシが得意な エイト・ビートのダンス」。歌い出しはそんなだった。久々にこの歌を思い出したのは、誠実そうな見た目に抜群の信頼を誇る人々の不祥事が話題になっているからである。出来事にタイトルを付けるとすれば、「そんなかんぽに騙されて」というところだろうか
▼かんぽ生命保険で加入者に不利益を生じさせる乗り換え契約が多数見つかった問題である。日本郵政グループはおととい、今月以降、約3000万件のかんぽ生命全契約を調査すると発表した。不適切だった可能性のある契約が、18万3000件に上ることが明らかになったためだという。ことし6月の公表当初は数万件程度で、経営陣も法令違反はしていないとうそぶいていた。ところが調べを進めるにつれ5万が9万となり、ついに18万件。今後の全件調査であとどれだけ増えることか
▼保険販売を担当する郵便局職員にかけられた過剰なノルマや、新規契約偏重の営業手当制度が現場の暴走を招いたらしい。それも気の毒だが何より許し難いのは、情報に疎く人が良いお年寄りを標的にしたことである。「あなたが心配」と「ウブなふり」をしたのかもしれぬ。信頼は地に落ちた。