見えるありがたさを目の不自由でないわれわれは忘れがちだ。富士メガネ(札幌)がボランティアで続ける海外難民視力支援を知り、それを痛感させられた
▼目で情報を得られない難民の生活は極めて過酷。状況を改善しようと1983年から、同社は世界中の難民らに眼鏡を贈る活動に取り組んでいるのである。創業者金井武雄氏の「モノが見えることで、人生を助けることもできる」との思いが基礎にあるという。活動を伝える『日本でいちばん大切にしたい会社2』(あさ出版)に印象深い一節があった。国連難民高等弁務官事務所から掛けられた感謝の言葉だ。「〝視覚〟という贈り物は貴重だ。視力が回復するや、個人の人生は大きく変わる。子供も大人も学習が可能となり、阻害された状況から立ち直ることができる」
▼西田幸二大阪大教授(眼科学)らのグループが人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作製した角膜組織を患者に移植する世界初の手術を実施したとの報に触れ、先の例を思い出した。今回の臨床研究が成功すれば、亡くなった人からの角膜提供を待つしかなかった多くの患者を救うことになる。容易に手に入らなかった眼鏡を必要なだけ供給できる体制が整えられるようなものだ
▼幸い手術後の経過も良く、ほぼ見えない状態だった40代の女性の視力は日常生活に支障がない程度にまで改善しているとのこと。危惧されていた拒絶反応も起きていないそうだ。うれしかったろう。人生を大きく変える視覚という貴重な贈り物が、回復を願うたくさんの患者に早く届けられるといい。