実現不可能に思える夢も信念を持って進めば必ずかなう。米映画『フィールド・オブ・ドリームス』(1989年)は見る者にそんなメッセージを伝える作品だった
▼過去に悔いを残す主人公レイがある日、トウモロコシ畑の中で謎の声「お前がそれを造れば、彼は来る」を聞く場面から物語は始まる。自分のやるべき事に気付いたレイは周囲がばかにするのも構わず大切な畑をつぶし、そこを野球場に変えてしまう。どうなったか。八百長疑惑で球界から永久追放されたシューレス・ジョーをはじめ、既に亡くなったはずの往年の名選手たちが次々と現れたのである。最初は戸惑っていた彼らもその特別な場でのプレーを大いに楽しんだ
▼いい話だがしょせんは作り話。そう考えるのが自然だろう。ところが同様のことが実際に起きたのである。それは東日本大震災で壊滅的被害を受けた釜石市に新設された「釜石鵜住居復興スタジアム」。ラグビー・ワールドカップ日本大会の一戦がこの会場にやってきたのだ。復興の励みになる何かをと地元有志が大会誘致に乗り出したのは震災直後のこと。ゼロどころかマイナスからのスタートだった。15年、ラグビーの街の熱意は認められ、国内で唯一会場がなかったにもかかわらず開催都市に決定
▼スタジアムはそれから、津波に破壊された釜石東中と鵜住居小の跡地に造られたのである。25日のフィジー―ウルグアイ戦は大会序盤屈指の好ゲーム。1万6000の席はほぼ埋まり、会場は熱気に包まれたそうだ。信念を持った多くの人がいたからこその奇跡だろう。