正義の味方が自分の顔を隠して敢然と悪に立ち向かう。いわゆるヒーローものの定番である。頭巾をかぶった「鞍馬天狗」あたりに源流があるのかもしれない
▼正体が知れてはいろいろと不都合のある人物なのだろう。だからといって世にはびこる不正を黙って見過ごすつもりはない。仮面やマスクで顔を隠して理不尽に苦しめられている人の所にさっそうと現れ、悪いやつらを一網打尽。どこへともなく消えていく。懐かしいところで横山光輝原作の特撮テレビドラマ「仮面の忍者赤影」を思い出す人もいよう。海外では何度も映画化された「マスク・オブ・ゾロ(怪傑ゾロ)」が有名だ。ヒーローはマスクを着けることで、生身の人間から正義の象徴に姿を変えるのである
▼ただ、そんな見栄えのするマスクでなくとも、象徴の役割を果たすには十分だ。現在の香港で起きていることである。多くの市民が風邪予防に使うようなごく普通のマスクを着け、連日連夜、民主主義を守るための抗議活動を続けている。マスクは主に当局から個人を特定されるのを防ぐためのものだ。抵抗の象徴的姿である。ところが林鄭月娥香港政府長官は議会を経ずに規則を定められる「緊急条例」を発動。5日に「覆面禁止法」を施行した。法律で象徴も個人情報も剥ぎ取ろうというのだろう
▼デモはそれから鎮静化するどころか激しさを増した。選挙を通じて民意が国政に反映される日本とは違い、中国の息のかかった香港では政治を動かすにはデモに頼るしかない。マスクを着けたヒーローたちの自由を求める戦いが続く。