人間は太古の記憶を宿しているため、いつまでたっても冬とは孤独で恐ろしい季節だとの観念から抜け出せない―。詩人の萩原朔太郎はそう考えていた。随想「冬の情緒」に書いている
▼「先祖たちは、自然の脅威にをののきながら、焚火の前に集つて居た。火が赤々と燃えて来る時、人々の身体は暖まり、自然に眠りが催して来た」。朔太郎はそれを「母の懐中に抱かれて居た、幼なき時の記憶」と重ねるのである。冬のいてつく寒さから幼く弱い体を守ってくれる母を慕うように、「何よりも人々は火を愛した」と朔太郎は記す。それが実感としてよく分かる季節が再び巡ってきた。きょうは二十四節気で冬の始まりを告げる立冬である
▼本道も暦に合わせるかのように、このところ一気に季節が進んだ。戸外に出ると冷たい風に思わず身が縮む。「寒いですね」が最近のあいさつ代わりである。6日に札幌の手稲山で初冠雪を確認。旭川の市街地でも雪が降った。そしてきのうはついに札幌で初雪観測である。日本気象協会によると、この週末には12月上旬並みの寒気が流れ込むそうだ。道内全域は厳しい冷え込みとなり、日本海側の広い範囲では平地部でも雪が積もる見込みという。いよいよ冬本番である。仕事など車で出掛ける予定のある人はタイヤ交換が必須だろう
▼「深雪道来し方行方相似たり」中村草田男。雪が深くて来た道も行く道も同じに見える。辺ぴな所を車で走っていてそんな状態に陥ったら危ない。ここしばらくは天気を見て、荒れそうなら無理せず家の中で火を愛している方がいい。