文章の読み方には「アルファー読み」と「ベーター読み」の2種類があるそうだ。言語学者の外山滋比古氏が『「読み」の整理学』(ちくま文庫)で説明していた
▼既に知っていることを読むのがアルファー、まだ知らないことを読むのがベーターである。例えば自分で実際に見た野球の試合について書かれた文章を読むのが前者、見たことも聞いたこともない知識に触れるのが後者である。難易度は後者の方が高い。アルファーは誰でも楽に習得できるが、ベーターはそう簡単でないと外山氏は言う。鍵は幼児期だ。おとぎ話など物語をたっぷり聞いて育つと抽象化や類推の概念が身に付き、未知の物事でも理解しながら読めるようになるという
▼つまりこれ、別の言い方をすれば読解力だろう。今の日本の15歳のそれが幾分低下しているらしい。経済協力開発機構(OECD)が3日公表した2018年の国際学習到達度調査で明らかになった。国際比較で前回の8位から15位へと大きく順位を下げたのである。本や新聞よりネットの短文を好む生徒が増えた事実をOECDは指摘するが、理由はそんな最近の状況変化だけだろうか。今15歳といえば「ゆとり教育」の時代に幼児期を過ごした生徒たちである。当時の空気が彼らからベーター読みを学ぶ機会を奪ったのでなければいいのだが
▼外山氏も言葉の教育は「就学以前において、基礎の教育は完結する」と記していた。とはいえ日本は数学と科学では世界トップレベル。読解力もまだ平均以上だ。間違った政策で将来に禍根を残すことだけは避けたい。