古代ギリシャの医聖ヒポクラテスが、紀元前460年頃の出来事を書き残している。それは街のこんな様子だった。「突然、多くの人々が高熱を出し、震えがきてせきも止まらない。病気は瞬く間に広がり、人々は恐れおののいた」
▼症状や感染態様などからインフルエンザの流行について記述したものと考えられているそうだ。ペニシリンのような特効薬もない時代である。肺炎で死ぬ人が後を絶たなかったらしい。呼吸器を機能不全に陥れる肺炎は医学が格段に進歩した現代にあっても恐ろしい病気である。原因としてインフルエンザウイルスや細菌がよく知られているが、最近にわかに注目を浴びているのは新型のコロナウイルスだ。中国湖北省の武漢市で発症者が相次いでいる
▼初めて確認された昨年12月12日以降、きのう朝までに中国全土で201人がり患。うち3人が死亡した。感染者はもっと多いとの説もあり、拡大の懸念は高まる一方だ。2003年に猛威を振るった新型肺炎SARSを思い出す。それはお隣の話、と安心してはいられない。中国は24日から春節の長期休みに入る。この機会に日本を訪れる人が毎年大勢いるのだ。6日には日本の空港の検査をパスして発症者が入国した事例もあった。防疫体制も万全ではない
▼幸い新型ウイルスの感染力は弱く、重篤になるのもまれという。ただ子どもや高齢者、体力のない人はその限りでない。いったん肺炎になれば容易に危険な状態に陥ろう。古代から人々を悩ませる肺炎をこれ以上はびこらせないために、手洗いとうがいを励行したい。