戦国大名斎藤道三は、一度狙いを定めて食い付くと相手を倒すまで離さなかったという。美濃のマムシと恐れられたゆえんである。一介の油売りにすぎなかった男が、一国一城の主にまでのし上がったのだから大したものだ
▼稲葉山城主長井長弘の家臣になったのを皮切りに武士として出世街道を突き進み、ついには主君を倒して城も名前も奪った。次いで近隣の地を制圧し、とうとう美濃国を手中に収めたのである。まさに下克上の代表格と呼ばれるにふさわしい。この力士もそれくらいの快進撃を見せたのでないか。大相撲初場所で番付最下位幕尻から初優勝という、史上まれに見る下克上を成し遂げた徳勝龍である
▼東西合わせて42人いる幕内力士のうち西方一番下の前頭十七枚目。一方で年齢は33歳とかなり上の方に属する。こんな結果を予想できた人は一人もいなかったに違いない。2日目にして一つ上の番付十六枚目の魁聖にあっさり砂を付けられたこともあり、序盤はほとんど注目されていなかった。8日目に琴奨菊を下したあたりからだろうか、観客の見る目が変わってきた。小細工なしで真っ向ぶち当たり、土俵際でねばって逆転する。一度四つに組んだら相手を倒すまで離さない