歴史上、高い致死性で何度も人類に壊滅的被害を与えた感染症といえばペストをおいて他にない。14世紀のパンデミック(世界流行)では欧州人口の6割が失われたとみられている
▼感染経路は「ネズミから人」が定説だが、近年は別の説も出ているようだ。「人から人」への感染が主だったというのである。英国の公立大の研究員が「ネズミから人」では拡大状況とつじつまが合わないことに気付き、調べたそうだ。研究員は新たな資料を基にコンピューターで感染シミュレーションを繰り返し、「人から人」が主流でないとあれほど急速に広まらないことを明らかにしたのである。当時は感染源がネズミとの認識で退治に力を入れていたが、時すでに遅しだったわけだ
▼昔の人はこれだから、と笑ってはいられない。いま世界に飛び火している新型コロナウイルスでも中国は同じ過ちを犯した。「野生動物から人」で事を済ませようと情報を抑えたため、「人から人」への対策が大幅に遅れてしまったのである。その結果が爆発的な感染拡大だ。きのうまでに感染者2万4000人以上、死者490人に上る。習近平指導部は3日、初動に「欠点と不足」があったと公表した。自ら失策を認めるのは異例という。厳しい国際社会の目に知らぬふりはできないと観念したのだろう。不安と怒りが渦巻く国内事情にも配慮したか
▼武漢で最初に患者が出た昨年12月初旬からの空白の1か月間がつくづく悔やまれる。中国にいまだ残る隠蔽(いんぺい)体質もウイルスには勢力を広げるのに格好の環境だったらしい。