とつとつと語るように歌う千昌夫さんの『味噌汁の詩』(中山大三郎作詞作曲)が好きな人は多いのでないか。間に挟まる「金髪?き…金髪だけはいいんじゃないべかねえ」のせりふが印象的だった
▼中にこんな一節もある。「日本人なら忘れちゃこまる 生まれ故郷と味噌汁を」。ふるさとを出て16年の男が冬のしばれた日に温かいみそ汁を飲んで、育った町と「おふくろ」を思い出し望郷の念に駆られるのである。誰にでもおふくろの味があろう。人によりそれは卵焼きだったりカレーライスだったり。子羊の香草焼きだったという人だっているかもしれない。その味はまた同時にふるさとの記憶を呼び覚ます。食べ物とは実に不思議な働きをするものである
▼鳥取県岩美町の中学校で先週、給食に地元特産の「若松葉がに」が出たそうだ。漁港で水揚げされたばかりの新鮮なズワイガニらしい。地元の味も、おふくろの味と似たところがある。その土地の食文化として生活と密接に結びついているからだろう。カニは毎年この時期、卒業する3年生に地元の漁業団体が無料で提供しているのだという。ことしも一人一匹、100人分が届けられた。ニュースで映像を見たが、なかなか食べごたえがありそうな見事な体格である。あれは生徒たちの思い出に残るに違いない
▼これだけ豪華なのは珍しいものの、多くの学校給食でこうした「郷土食」が供されている。岩美の子どもたちは就職などで地元を離れたとしても、ズワイガニを見るたびこの給食とともにふるさとを思い出すのだろう。みそ汁のように。