明治期の日本を代表する文豪芥川龍之介は親子関係に恵まれない人だったそうだ。生後7か月のころに母親が精神に変調をきたし、伯母の家に預けられた。また父は元長州藩士で非常に短気でけんかっ早かったため養家に嫌われ、近付くことを許されなかったという
▼そんな複雑な事情があったせいかもしれない。警句集『侏儒の言葉』にこう書いている。「人生の悲劇の第一幕は親子となったことに始まっている」。親も子も、互いを選ぶことはできない。悲劇ばかり多いわけでないのは誰でも知っているが、時に悲劇どころか地獄になる場合があるのもまた確かである。だとしてもこれはひどすぎないか
▼千葉県野田市で去年1月、当時10歳の栗原心愛さんが父親の勇一郎被告(42)に虐待され死亡した事件である。裁判が始まっている。26日には既に傷害幇助(ほうじょ)の罪が確定している33歳の母親が千葉地裁で証言。被告との生活について心愛さんが生前、「毎日が地獄」と言っていた事実を明かした。それだけ虐待は続いていたのだ。事件が起こった日も被告は前夜から心愛さんを下着のまま長時間風呂場に立たせ、午後からは冷水を浴びせたり馬乗りになって暴行を加えたりしていた。1月である。逃げ場のない家庭で心愛さんはどれだけ苦しく悲しい思いをしたか
▼被告は裁判で反省の態度を示しながらも暴力を否定し、しつけのつもりだったと主張した。何としても子どもに非があったと認めさせたいらしい。死に追いやってなお、心愛さんをむち打つ。残虐と言うほか言葉が見つからない。