世の中には口がうまい人というのがいるものである。落語「つぼ算」に登場する兄貴のような人物がその典型だろう。子分に頼まれ一緒につぼを買いに行くのだが、この店の主人とのやり取りが面白い
▼子分が欲しいのは二荷入りのつぼ。ところが兄貴は3円に値切らせた上で一荷入りのつぼを買う。子分は「違う」と文句を言うものの、兄貴は「まあ見ていろ」と余裕の表情。少し歩いて慌てたふりで店に引き返す。間違えたから二荷のつぼと替えてくれというのだ。快諾した主人にまず一荷のつぼを3円で下取らせ、さっき払った3円と合わせて6円だとして清算完了。主人の「毎度あり」の言葉に見送られ意気揚々と引き揚げる。物と現金をごっちゃにして言いくるめたわけだ。端的に言って詐欺である
▼三木谷浩史楽天社長の最近の発言でこの噺を思い出した。運営する「楽天市場」で全店送料無料を打ち出し、利益が削られるためできないとする出店者に「価格全体で調整すればいい」と指南したそうだ。つまり送料を上乗せして商品価格とし、客には送料無料をうたえということらしい。それが嫌なら出店者が送料を負担せよ、と強制しているようなもの。詐欺ではないが誠実でもない
▼公正取引委員会は先週、楽天の送料無料制度に独禁法違反(優越的地位の乱用)の疑いありとして緊急停止命令を出すよう東京地検に申し立てた。当然である。それに「よそで5000円の商品が当店では6000円。ただし送料は無料」の口車に乗せられて買う客がどこにいよう。つぼ屋の主人じゃあるまいに。