ニセコ町出身で今は仙台の出版社「荒蝦夷(あらえみし)」を率いる土方正志さんという人がいる。阪神淡路や奥尻など被災地で取材活動をした後、学生時代を過ごした東北の姿を伝えたいと2000年に会社を立ち上げた
▼最近、著書『瓦礫から本を生む』(河出文庫)を読み、土方さんを知った。東日本大震災で自らが被災し、一度は「終わりかと覚悟」したが、地域の声を伝えるために再び立ち上がったという。中に大災害を経験したからこその叫びがあり、心を揺さぶられた。「なにかが失われたら、なにかが生まれなければならない。いや、なんとしても生み出さねばならない」「災厄に負けぬための、それがひとつの道なのではないか」
▼津波被害に加え福島第一原発事故まであった福島県の人々もきっと同じだろう。この決定を聞き、「さあここからだ」と何かを生み出すため思いを新たにしている人も多いに違いない。4日、全町避難が唯一続いていた双葉町の一部地域で、避難指示が解除された。JR常磐線双葉駅周辺や線路、道路など限定的ではあるものの、町復興に向け意義は大きい。14日には町内で途絶していたJR常磐線も全線開通するそうだ。広域交流の要が復活を遂げるのである
▼これからも曲折はあろう。ただ、土方さんは「復興に公式などない」という。「そこにはただ善かりかるべき明日を幻視する試行錯誤のみがあり、その日々はこれからも続く」のだと。できればわれわれも共に「善かりかるべき明日」の方を見ながら、被災地の背中をそっと押してあげられるといい。