戦前は寸鉄人を刺すジャーナリストとして健筆を振るい、戦後は国会議員に転身し首相まで務めた石橋湛山は、引き際の鮮やかな人だったという。強い信念があったらしい。こう書き残している
▼「急激にはあらず、しかも絶えざる、停滞せざる新陳代謝があって、初めて社会は健全なる発達をする。人は適当の時期に去り行くのも、また一つの意義ある社会奉仕でなければならぬ」(『石橋湛山評論集』岩波文庫)。だからというわけでもあるまいが湛山の首相在任期間はわずか65日。日本の憲政史上では東久邇宮稔彦王の54日、羽田孜の64日に次ぐ3番目の短さだった。そこへいくとこちらの人はそんな湛山の信条などきっとどこ吹く風だろう。ロシアのプーチン大統領である
▼2024年に任期切れで退任のはずだったがここにきて続投の目が出てきた。政権与党の議員が10日、憲法改正に合わせ大統領の通算任期をゼロにするよう提案したのだとか。任期をいったんリセットするとはなかなかの荒業である。コンピューターゲームじゃないんだからと言いたくなるが、プーチン氏本人もずいぶんと乗り気らしい。中国も18年に国家主席の任期制限を撤廃し、習近平氏の終身独裁を可能にしている。「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する」の言葉もある。権力者はトップの座を譲りたくなくなるもののようだ
▼日本も自民党が17年に総裁任期の延長を決めている。党の話とはいえ今後度が過ぎればやはり批判は免れまい。国のリーダーも適度に新陳代謝し、社会の健全な発達を促すのが望ましい。