えん罪

2020年04月02日 09時00分

 言葉を曲解する人に会った経験はないだろうか。例えば誰かに「ありがとう」と言われたとき、そんな人は「私をばかにしてる」と怒ったりする。腹に隠した思いが意味をねじ曲げるのだろう

 ▼森鴎外の『舞姫』にこんな一節がある。「この交際の疎きがために、彼人々は唯余を嘲り、余を嫉むのみならで、又余を猜疑することゝなりぬ。これぞ余が冤罪を身に負ひて、暫時の間に無量の艱難を閲し尽す媒なりける」。主人公は交際下手で勇気もないから悪所に行かないだけなのだが、「彼人々」に清廉潔白を気取っているとばかにされ、警戒されてもいるのである。悪所通いという後ろ暗い趣味を持つ彼らの目には、主人公が告発者に見えたらしい

 ▼滋賀県東近江市の病院で2003年、故意に患者の人工呼吸器を外したとして殺人罪が確定した元看護助手が再審で無罪となった。当時容疑者だった女性を自白させた取調官も腹に隠した功名心とゆがんだ正義感のせいで、事実とは別のものを見ていたに違いない。女性は裁判で無実を訴えたが自白を根拠に有罪とされ、17年8月まで服役した。再審が決まって迎えた3月31日の大津地裁判決で裁判長は、自白は取調官が女性の好意を利用して引き出したと信用性を否定。そもそも殺人事件だった証拠もないと指摘した

 ▼こいつが犯人だ―。俺が解決する―。取調官のそんな思い込みと気負いが、一人の女性から最も楽しかるべき20代と30代を奪ったのである。判決後、女性は「とてもうれしい」と語ったそうだ。取調官は今度こそ真っ直ぐに受け止めたろうか。


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