例年この時季にはテレビで連日流されている桜前線北上のニュースをことしはほとんど見掛けない。不要不急だから、と桜も北へ向かうのをやめたのだろうか。もちろんそんなはずはない。人間の都合で伝えられていないだけである
▼どこそこの名所で今満開と聞けば、桜好きな日本人としてはつい足を向けてしまうのが人情というもの。花見客が大勢集まってしまうと新型コロナウイルスの感染拡大は避けられない。全く難儀な春というほかない。北海道も本当なら今週末あたりから、道南を皮切りに皆で花見を楽しむ頃合いになるはずだったのに。函館の五稜郭公園も札幌の円山公園も、既に飲食を伴う宴会は自粛するよう要請が出されている
▼眺めるなら周りを気にしながら立ち止まらず、とならざるを得ない。「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」在原業平。愛するあまり桜が頭から離れないというわけだが、ことしは気軽に見られないだけに似たような気持ちの人も多いのでないか。とはいえ新型コロナの流行はいつか終わるし、桜は間違いなく来年も咲く。そう気を取り直すと、現代にも今聞くのにぴったりの歌があるのを思い出した。シンガーソングライター森山直太朗さんの『さくら』(森山直太朗・御徒町凧作詞作曲)である
▼歌い出しはこうだった。「僕らはきっと待ってる 君とまた会える日々を さくら並木の道の上で 手を振り叫ぶよ」。満開の桜の下で気兼ねなく笑い合える日常を取り戻すために、次の大型連休もできるだけ家でおとなしくしているとしよう。