世間体や外聞を気にして、本当の自分を見せないように生きていくのは少々しんどい。ただ、現実にはそんな人も少なくないはず。ディズニー映画『アナと雪の女王』の主題歌「Let It Go」がヒットしたのもそんな心情を表現した歌だったからでないか
▼こんな歌詞があった。「ありのままの 姿見せるのよ ありのままの 自分になるの 何も怖くない 風よ吹け 少しも寒くないわ」(高橋知伽江訳)。この人もよほど覚悟があったに違いない。競泳の池江璃花子選手のことである。おととい、退院後初めてウィッグ(かつら)を外し、その姿をSNSに投稿した。19才の女性である。白血病治療のせいとはいえ、公開には抵抗があったろう
▼今回あえてそれをしたのは「今のありのままの自分を見てもらいたい」からだった。見た目だけの話ではあるまい。ちょうどそんな心境のときに、スキンケアブランド「SK―Ⅱ」から彼女の言葉を発信するコラボレーション企画の申し出を受けたのだとか。「私にとっては、生きていることが奇跡」。池江さんはそう記した上で続ける。「現在、世界中が不安で辛い日々を送っています。このメッセージが、アスリートの仲間にとっても、また同じように苦難と戦っている誰かにとっても、小さな希望になればうれしいです」
▼病気と戦う患者や医療関係者、自粛で収入を失った人々、学びの場を奪われた子どもや学生たち。決して希望を見失うことなくみんなで乗り越えよう―。池江さんはありのままの姿でそれを伝えようとしたのだ。伝わっている。