昔の出来事は実際に見たり触ったりできないため、容易には事実が見えてこない。歴史を知る難しさだろう。それだけに怪しげな言説がまことしやかに伝えられる例もしばしばある
▼有馬哲夫早稲田大社会科学総合学術院教授は『歴史問題の正解』(新潮新書)で、歴史を議論するときには根拠を示すことが重要と指摘していた。「これがなければ、歴史を巡る議論はただの言い合いになり、水掛け論になる」からだ。歴史を巡る議論と聞いてまず思い出すのは日韓間のいわゆる「従軍慰安婦」問題でないか。今、韓国がそれで大揺れだ。対日責任追及の先頭に立ってきた元慰安婦の李容洙さんが今月初め、活動母体の旧・韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協、現・正義記憶連帯)の暗部を告発したのである
▼その内容は、「尹美香前理事長が政治目的で慰安婦を利用してきた」「集めた義援金や基金を慰安婦のために使ったことがない」「だまされた」。これまでを見てきた者にとっては驚くばかりの証言である。挺対協は対日世論の形成や政策決定に強い影響力を発揮してきた。その力を背景に尹前理事長はこの春、国政進出に成功している。告発を重く見た検察が挺対協を捜査してみると補助金流用や不正会計処理、親族優遇など疑惑が次々
▼尹氏も黙ってはいない。李さんが実は慰安婦でなかった可能性をにおわせはじめた。どうも日本はこうした根拠のない話に付き合わされてきたらしい。日本が幾ら事実を示しても水掛け論になるはずだ。慰安婦問題を解決するには事実を積み重ねるしかないのだが。