授業でペリー来航を学んでいるとき、一緒にこの狂歌を覚えた人も多いのでないか。「泰平の眠りを覚ます上喜撰 たった四はいで夜も寝られず」。お茶(上喜撰)の4杯と蒸気船の4はいを掛け、どちらもそれが原因で眠れないというわけだ。黒船はそれほどの驚きと恐怖を江戸にもたらしたのだろう
▼思い出すのはお台場の逸話である。1853年、ペリーが現れ開国を要求すると、幕府は1年の猶予を要求した。黒船は江戸を一瞬で火の海にする艦砲を備えていたが、江戸湾岸には対抗できる火器が十分にない。幕府は1年で幾つもの台場(海上砲台)を築き、強力な大砲を据えたのだ。翌年再び来航したペリーは砲台を確認すると安易に近付かず、脅し外交も見直したという。自立を守るのに防衛力がいかに大事かを今に伝える逸話である
▼政府は15日、他国のミサイル攻撃に備える地上配備型迎撃システム「イージスアショア」の配備手続きを停止すると発表した。現代の台場は築かれなくなったらしい。核弾頭搭載可能な北朝鮮の弾道ミサイルに脅威が高まる2017年に導入を決めた装備である。停止の理由は、発射後のブースターを安全に落下させられないからだという。甘い見通しや雑な調査、説明不足は批判されて当然だ
▼とはいえ安全保障環境は依然厳しい。北朝鮮は南北共同連絡事務所を爆破するなど過激の度を強め、中国公船も連日のように尖閣周辺の領海に侵入している。ここで隙は見せられない。政府はすぐに次の策を示すべきだろう。「夜も寝られ」ぬ事態は誰も望んでいない。