長さや重さの単位に統一規格がなかったころ、人は体の一部を測り方の基準にしていた。「身体尺」と呼ぶ。欧米の「フット」(足)や、日本の「尺」(広げた手の親指から中指)がその典型だろう
▼夏目漱石の小説『彼岸過迄』にもこんな一節があった。「森本は自分が肱を乗せている窓から一尺ばかり出張った縁板を見て、『ここはどうしても盆栽の一つや二つ載せておかないと納まらない所ですよ』と云った」。1尺は尺貫法で30・3cmだが、それだけ大きい手を持つ人はほとんどいない。ただ、およその長さが分かっているからこそ、盆栽を置くのにふさわしい空間を友人に伝えられたのである。ところでこの身体尺、新型コロナウイルスをなだめすかしながら暮らす「ウィズコロナ」にも大いに役立つのでないか
▼感染防止のための新しい生活様式の一つに、人との間隔を適切に空ける「ソーシャルディスタンス」がある。できれば2m、最低でも1m離れるのがその基本だ。この距離を簡単につかめる。まず両手を左右に広げたときの長さ「尋(ひろ)」を使ってみたい。1尋は約1・8m。マスクなしでも一応安心な距離である。成人男性が前へ倣えをしたときにできるスペースは約0・8m。対面を避け、マスクもした方がいい
▼メジャーいらずですぐに距離を見積もれるのがいいところである。身体尺ではないがもう一つ、手頃な物で切りの良い長さを知りたい場合は当紙「北海道建設新聞」をご利用いただきたい。新聞を開いて対角線が約1mである。皆さんにとっても身近だといいのだが。