勝手な思い込みで他人の振る舞いの意味を見抜いた気になる―。誰にでもあることでないか。たいていは的外れだ
▼『今日は死ぬのにもってこいの日』(ナンシー・ウッド著)で、インディアンの古老もこう言っていた。「兄弟よ、あなたはわたしに戦いを挑む。兄弟よ、あなたはわからないらしい、わたしたちが今あるようにしか、生きられないってことが。兄弟よ、あなたはわたしとは違う歌を聴いてきたんだ」。違う環境に生まれ育ち、個性も別な人々が同じ考えを持たないのは当たり前。それで争うのは無意味というわけだ。あおり運転をする者もこの「兄弟」と似ている。勝手な思い込みで相手が自分に敵対行為をとったと誤解するのである
▼「前をのろのろ走って嫌がらせされた」「わざと進路をふさぎやがって」「後ろにぴったり着けてプレッシャーを掛けられた」といった具合。客観的に見ればそんな状況になる可能性は幾つも考えつく。ドライバーの中には不注意な人も慎重過ぎる人もいるのだ。改正道路交通法が6月30日に施行され、あおり運転が厳罰化された。今後は幅寄せや急ブレーキ、しつこいクラクションなどで他の車の通行を妨害し、危険を生じさせた場合は取り締まりの対象になる
▼神奈川県の東名高速で、あおり運転を引き金に夫婦が亡くなった事故はまだ記憶に新しい。逆恨みした男が身勝手な怒りを爆発させた揚げ句の出来事だった。あおり運転に特効薬はない。せめてこの厳罰化が、カッとなりやすい人が相手の事情を察する冷静さを身に付けるきっかけになるといい。