仲間うちだけで意を通じ合わせたいときに使う言葉に符丁がある。最もよく知られているのは「お勘定」を指す「おあいそ」だろう。昨今は飲食店で客が呼び掛けているのもよく耳にするが、店員に「愛想を振りまけ」と命じているようでどこか違和感を拭えない。やはり符丁は時と場所を選んで使いたい
▼落語にも符丁をお題にした「青菜」がある。大きな屋敷の旦那が、仕事に来ている植木屋に酒をすすめる噺だ。旦那がおひたしを出そうと奥方に申し付けると、こんな言葉が返ってくる。「鞍馬山から牛若丸がいでまして、その名を九郎判官」。聞いた旦那は「では義経に」。切らしているのを「食ろう(九郎)てしまった」「では、よし(義)ておこう」と符丁で伝え合ったわけ。客に気を遣わせない工夫である
▼一方で世の中には、後ろ暗い行為をごまかすための姑息(こそく)で白々しい符丁もあるようだ。東京都知事選投開票日の5日に、枝野幸男立憲民主党代表らが発信したツイートがそれである。枝野氏は自党が押す宇都宮健児候補に世間の注目が集まるよう宇都宮ギョーザを話題にし、「#宇都宮」とハッシュタグを付けて拡散。同党関係者や支援者もこれに追随して次々と「#宇都宮」情報を流した
▼ついには利用された「宇都宮餃子会」の公式ツイッターから、〝悲しくなった〟と苦言を呈される始末。先の落語では、符丁を使ってみたくてたまらない植木屋が家に帰ってから変にまねをして、妻と友人にすっかりあきれられる。使う時と場所を間違えた枝野氏らも植木屋と変わらない。