昭和演歌には「男に尽くした揚げ句、捨てられた女」の切なさや悲しみを歌い上げるものが多かった。現代の若者が耳にすれば、眉をひそめるに違いない
▼細川たかしさんが歌って大ヒットした『心のこり』(なかにし礼作詞、中村泰士作曲)もその例に漏れない。歌い出しはこんなだった。「私バカよね おバカさんよね うしろ指 うしろ指 さされても あなた一人に命をかけて 耐えてきたのよ 今日まで」。新型コロナウイルス感染者に率先して対応した結果、赤字に陥り倒産の瀬戸際にまで追い詰められる病院が増えていると聞き、かの歌を思い出した。患者を救おうと文字通り命をかけて尽くした医療関係者が、風評で後ろ指をさされた上に、打ち捨てられようとしているのである。理不尽という以外ない
▼病棟を新型コロナ専用にすると診療報酬は上乗せされるものの、一般患者の受け入れは減らさざるを得ず、その分の収入が削られる。さらに感染対策や人員には通常を超える経費がかかるのだ。日本病院会などが先月公表した経営状況調査によると、4月時点でコロナ患者を受け入れている病院の実に9割が赤字だったという。しかも月を追うごとに悪化している。今夏のボーナスを減額する病院も少なくないそうだ
▼東京では新規感染者が連日100人を超え、病院に再び専用病棟やICUの確保を求めている。すずめの涙ほどの経費補助にとどまるなら身勝手な話だ。医療関係者だってバカではない。耐えるにしても限度があろう。政府は尽くしてくれる方々にどこまで甘えるつもりか。